創業計画書は「返済できること」を伝える書類
不動産賃貸業を始めるとき、日本政策金融公庫の融資を利用する方が増えています。民間の銀行融資と比べてハードルが低く、不動産投資の第一歩として検討される方も多いでしょう。融資審査で最も重視されるのは、家賃収入がどれだけ上がるかではなく、「貸したお金を返せるかどうか」です。
既に物件を運用している方なら確定申告書や決算書で返済能力を判断できますが、これから初めて物件を取得する方にはその実績がありません。その代わりとなるのが創業計画書です。つまり、創業計画書は「自分にはお金を返す力がある」と示すための書類だと考えてください。
自己資金が多くても、返済能力が低いと判断されれば希望額は通りません。逆に自己資金が少なくても、手堅い収支計画で返済を続けられることを示せれば融資は受けられます。
創業計画書の9項目と記入のポイント
日本政策金融公庫の創業計画書はA4サイズ1枚の書式で、公庫のホームページからダウンロードできます。不動産賃貸業の場合、業種欄に「不動産貸付業」と記入します。公庫の記入例には不動産業向けがないため、他業種の記入例を参考にしつつ、不動産賃貸業に合わせた内容に仕上げる必要があります。
各項目で審査担当者が見ているポイントは次のとおりです。
| 項目 | 記入のポイント | よくある失敗 |
|---|---|---|
| 1. 創業の動機 | なぜ不動産賃貸業を始めるか、不動産や経営に関する知識・準備を具体的に | 「不労所得がほしい」「投資目的」と書いてしまう |
| 2. 経営者の略歴 | 本業の勤務年数・年収に加え、不動産関連の学習歴や宅建の取得なども記入 | 略歴が本業のみで不動産との接点が見えない |
| 3. 取扱商品・サービス | 物件の所在地・構造・戸数・各部屋の家賃・入居状況を具体的に | 物件情報が曖昧で、レントロールを添付していない |
| 4. 取引先・取引関係 | 管理会社名、入居者の属性(ファミリー・単身など)、仲介会社名を記入 | 空欄のまま提出 |
| 5. 従業員 | 自主管理か管理委託かを明記。家族の関与があれば記入 | 管理体制が不明瞭 |
| 6. 借入の状況 | 住宅ローン・車のローンなど正直に記入 | 隠してもバレるので正直に書く |
| 7. 必要な資金と調達方法 | 物件取得費・仲介手数料・登記費用・修繕費・運転資金を明細つきで | 諸費用や初期修繕費を少なく見積もりすぎる |
| 8. 事業の見通し | 月額家賃×戸数×入居率で根拠を示す。空室率は保守的に設定 | 満室前提で計算してしまう |
| 9. 自由記述欄 | 物件の立地優位性、周辺の賃貸需要、管理方針など補足を追記 | 空欄のまま出してしまう |
A4の1枚だけでは書ききれないことが多いので、レントロール(家賃一覧表)や物件概要書、修繕計画を別紙として添付すると説得力が上がります。
事業の見通しは「少なめの売上」で作る
審査を通すために家賃収入を高く書きたくなりますが、実は逆です。「収入は少なめ、経費は多め」で計画書を作り、それでも返済が可能であることを示す方が信頼されます。
家賃収入の計算式は次のとおりです。
月間家賃収入 = 各部屋の月額家賃の合計 × 想定入居率
たとえば、1棟6戸のアパートで家賃が月5.5万円/戸、入居率85%(6戸中約5戸が埋まっている想定)なら、月間家賃収入は約28万円になります。周辺の家賃相場や空室率のデータ(SUUMO・HOME'Sなどのポータルサイトや地元の管理会社からのヒアリング)を添付することで、数字の根拠を示せます。
ここで大事なのは「経費の分配率」の考え方です。家賃収入の中で各経費の割合をコントロールすれば、手残りが少なくても返済を続けられることを示せます。
個人事業主の場合
| 項目 | 金額(月額) | 家賃収入に占める割合 |
|---|---|---|
| 月間家賃収入 | 28万円 | 100% |
| 管理費・管理委託料(5%) | 1.4万円 | 5% |
| 修繕積立・維持費 | 1.4万円 | 5% |
| 固定資産税・都市計画税(月割) | 2.0万円 | 7% |
| 火災保険・地震保険(月割) | 0.6万円 | 2% |
| その他経費(通信費・交通費等) | 0.8万円 | 3% |
| 借入金返済(元利均等) | 10.0万円 | 36% |
| 手残りキャッシュフロー | 11.8万円 | 42% |
この表は手元に残る現金(キャッシュフロー)を基準に作っています。不動産賃貸業では、借入金返済の元金部分は経費になりませんが、利息部分は経費として計上できます。一方、減価償却費(この物件では月6.0万円ほど)は帳簿上の経費にはなりますが、実際の現金支出はありません。つまり帳簿上の利益は少なく見えても、手元に残るお金はその分多くなります。
審査では「帳簿上の利益+減価償却費」でどれだけ返済余力があるかを見られます。
法人の場合は、役員報酬を経費として計上できるため計算の仕方が変わります。不動産所得が一定水準を超えたら法人化を検討する方が多いですが、初めての物件取得でいきなり法人を設立する必要はありません。まずは個人で実績を作り、所得が増えてから法人化(資産管理法人の設立)を検討するのが一般的です。法人化の損益分岐点については、別途ご相談ください。
給与所得(本業の収入)がある場合、万が一空室が増えても返済を継続できる補てん手段として評価されます。配偶者に収入があることも同様です。こうした情報も面談で聞かれるので、事前に整理しておきましょう。
2025年以降の制度変更で知っておくべきこと
日本政策金融公庫の創業融資はここ数年で制度が変わっています。古い情報のまま準備すると、計画書の内容がズレてしまうので注意してください。
- 旧「新創業融資制度」は2024年に廃止され、「新規開業・スタートアップ支援資金」に統合された
- 自己資金の要件(以前は融資額の10分の1以上)は撤廃された。ただし審査では引き続き自己資金の額が評価される
- 原則として無担保・無保証人で利用できる
- 金利は申込時期によって変わるため、最新の金利は公庫の金利情報ページで確認する(2026年1月時点では特別利率Aが年2.70〜4.30%程度)
- 女性、35歳未満または55歳以上の方は「女性・若者/シニア起業家資金」の対象で、優遇金利が適用される
自己資金の要件が撤廃されたとはいえ、不動産賃貸業の場合は物件価格が大きくなるため、融資希望額の30%程度は自己資金として用意しておくのが現実的な目安です。通帳で計画的に貯めてきたことが確認できると、審査担当者への印象が良くなります。
なお、公庫融資はあくまで「事業」としての不動産賃貸に対して行われるものです。申請の際に「投資」ではなく「不動産賃貸業の開業」という位置づけで説明することが重要です。
当事務所のサポート
創業計画書は数字の根拠と整合性がすべてです。家賃収入の見通し、経費の配分、返済計画のバランスが取れているかを第三者の目でチェックすることで、融資の成功率は上がります。
当事務所では、不動産賃貸業の開業に必要な創業計画書の作成支援や、公庫との面談に向けたアドバイスを行っています。レントロールの作り方、収支シミュレーションの組み方、物件取得費の按分方法など、不動産特有のポイントを押さえた計画書に仕上げます。「数字の作り方がわからない」「計画書を見てほしい」という方は、お気軽にご相談ください。
